非エンジニアの会社に、自社開発のAI社内ツールが19個ある
「AIで社内ツールが作れるらしい。でも、うちのような中小企業に、そんなことが本当にできるのか」。もしあなたがそう感じているなら、この記事はまさにその疑問に、実物を見せて答えるための記録です。
ハンズバリュー株式会社は、社員8名の小さな会社です。経営コンサルティング、ホームページ制作、動画制作の3事業を営んでいます。約100社のホームページ制作を手がけてきました。
この小さな会社に、いま自社開発のAI社内ツールが19個あります。うち本番稼働しているのは15個です。
「社員8名でツール19個?」と驚かれるかもしれません。社員の数よりツールの数の方が多いのですから、無理もありません。でも、僕ら自身が最も驚いたのは、これらをほぼ全て、プログラミング知識ゼロの経営者である僕が、AI(Claude Code)と一緒に作った、という事実です。僕の本業は経営コンサルタントです。システム会社の出身でもなければ、社内に開発部門があるわけでもありません。それでも、19個のツールは現実に動いています。この会社の規模とツールの数のギャップこそ、僕がこの記事を書く理由です。
見積もり管理、日報・勤怠・給与計算、タスク管理、社内メール対応、セキュリティ監査、ナレッジ管理、採用試験、政府統計取得、経営ダッシュボード。それぞれ、僕たちの業務に最適化された道具です。この記事は、「AIで本当に社内ツールなんか作れるのか」という疑問に対する、実例の全体記録です。成功自慢ではなく、実際に何を・なぜ・どう作ったのか、失敗した1個は何か、その全貌を公開します。読み終わる頃には、「自分の会社なら何から作るか」を考えられる状態になっていただくことが、この記事のゴールです。
ただし、技術的な実装の詳細は、この記事では扱いません。この記事は、「非エンジニアが19個のツールを自作する」という大きな地図を示すことに専念します。
なぜ中小企業が自社開発するのか — SaaSの消耗戦から降りる
多くの中小企業経営者は、業務システムとして汎用SaaS(クラウドツール)を使っています。Chatwork、Slack、Asanaなど。それらは確かに便利です。ただ、便利さの代わりに、ある問題が付き纏います。
汎用SaaSの月額課金は「便利さ」を人質にした消耗戦。人数が増えれば費用が膨らみ、SaaSの値上げやサービス終了に振り回される。
僕たちが自社開発に踏み切った土台には、この構造への危機感があります。実際、いまの僕たちは自社のVPS1台に全プロダクトを同居させ、月額固定費のみで社員8名と100社以上のクライアントにサービスを提供しています。人数が増えても費用が膨らまない形を、自分たちの手で作ったわけです。
もう一つ、「機能の檻」という問題があります。汎用SaaSは万人向け設計なので、自社の業務フローに完全に合わせた改修を求めることができません。「議事録から自動で宿題を抽出してタスクシステムに投入したい」「見積もり金額と実績のズレを自動検算したい」「営業支援と給与計算を連動させたい」こんな要望があっても、SaaSのロードマップに載るまで待つしかない。その現実は、結局、人間が手作業で補うことになるのです。ツールは業務を効率化するはずなのに、逆にツールに業務を合わせるため、本来の流れを歪ませている。その矛盾が、AI自社開発への入口でした。
従来の常識は「業務プロセスをツールに合わせる」でした。でも、AI社内ツール開発はその逆を実現します。「業務プロセスに合わせてツールが進化する」のです。僕たちは社員から「毎月この作業が煩雑です」という声を聞くと、その日のうちにAIに相談し、当日中に実装して本番反映した事例もあります。
こうした自由度が可能になった理由は、AI技術による開発コストの激減です。これまでは「中小企業が自社開発するのは無理」が常識でした。開発費用が回収できないからです。ところが、AI時代には、中小企業の自社開発は現実的な選択肢へと変わったのです。
AI社内ツール19個の全体像 — 顧客向け7・社内基盤12
19個のAI社内ツールをカテゴリ別に整理しました。以下の表をご覧ください。
顧客向けプロダクト(7個)
| ツール | 説明 |
|---|---|
| つなぐAIチャット | マルチテナント型の生成AI対話システム。顧客のホームページに埋め込み可能 |
| つなぐWPガーディアン | WordPress多数管理。約100社のサイトを一箇所で監視・セキュリティチェック |
| つなぐAIライター | WordPressブロックエディタに統合。AI記事生成プラグイン |
| つなぐインサイト | GA4・Search Console連携の分析ツール。アクセス・コンバージョン見える化 |
| ミライストラクチャー | 財務分析ツール。経営数字を構造で読む。試験運用中 |
| つなぐSNS | Instagram連携キャンペーン管理。現在塩漬け状態 |
| つなぐKanban | タスク管理。議事録から宿題が自動カード化される仕組み |
社内基盤システム(12個)
| ツール | 説明 |
|---|---|
| 見積チェック | 提出前の金額検算・単価の記号ミス自動検出 |
| エージェント間メッセージ | 社内AIチームが非同期で指示交換する通知システム |
| 社内ポータル | 経営情報・ドキュメント・スケジュール一元管理 |
| メール対応 | 顧客メール受信を自動分類・優先度付け。試験運用中 |
| セキュリティ監査 | コードベース・ファイル・環境変数を定期スキャン。試験運用中 |
| 日報勤怠給与 | 日報から勤務時間・月給を自動計算 |
| ナレッジ管理 | 社内ノウハウをデータベース化・検索可能に |
| 採用認知テスト | 候補者向けの適性・知識診断。オンライン実施 |
| 政府統計取得 | 日銀・RESAS・e-stat等のデータを自動ダウンロード・加工 |
| 辞書DB | 顧客・スタッフ・会社の名寄せ台帳。中央管理 |
| 経営ダッシュボード | リアルタイム経営数字の可視化。日次更新 |
| 中央認証基盤 | すべてのシステムへのシングルサインオン。今後の新システムはこれで接続 |
代表例を3つ、深掘りして説明します。
その1:タスク管理(つなぐKanban)の自動化
僕たちが顧客支援時や社内ミーティングで起きた宿題(ToDoリスト)は、音声で議事録を取り、その後、手作業で「誰が・何を・いつまでに」をタスクシステムに入力していました。毎週たくさんの宿題が発生するので、この手作業だけで相応の時間を費やしていました。
2026年4月にMCPサーバーを自社実装しました。議事録をAIに処理させると、自動でタスク情報が抽出され、Kanbanに宿題がカード化されます。この転記の手作業を、人間が担う必要がなくなりました。
その2:日報・勤怠・給与の自動計算
日報の構造化とAI自動計算を本番稼働させています。スタッフの日報を起点に、勤務時間と月給の計算までを一つの仕組みで扱う設計です。
その3:Chatwork連携(MCP実装)
Chatworkは社内通知・顧客連絡の中枢です。ここにChatwork MCPサーバー(全318行・9つのツール)を自社実装し、AIがChatworkを直接読み書きできるようにしました。詳細は別記事『Chatwork MCPサーバーの作り方』で公開しています。
これら3つの例は、実は氷山の一角です。顧客向けの7つのプロダクト(守る・知る・書く・話す)は、すでに『接客AIクラウド』として商品化し、約100社のホームページ制作クライアント向けに提供を始めています。ホームページを起点に、AIが24時間働く営業担当の役割を果たす仕組みです。
非エンジニアがどう作るのか — Claude Codeとの開発フロー
僕はプログラミングができません。コードを見せられれば、なんとなく雰囲気はつかめますが、自分で書くことはできません。それでも19個のAI社内ツールを作れたのは、開発環境としてClaude Code(AIコーディング環境)を使い、僕とAIの役割分担をはっきりさせたからです。
役割分担はシンプルです。コードは全てAIが書きます。僕が担うのは、仕様の言語化と検証です。「議事録を読み込んだら、宿題を抽出して、担当者と期限をつけてタスク管理に登録してほしい」。こういう一文を日本語で伝えるのが僕の仕事です。AIはそれを設計に落とし、実装し、動くものを見せてくれます。僕は実際に触って、「この画面の並びだと現場が迷う」「期限のない宿題はどう扱うのか」と、現場の目で検証を重ねます。設計と開発はAIと二人三脚、判断と検証は人間。この分担が定まってから、開発は一気に加速しました。
ある日の流れを紹介します。朝、社員から「この作業が面倒です」という要望を聞きます。僕はその業務の現場をそのまま言葉にします。「毎月この作業は誰がやっていて、どこで間違いが起きて、どうなれば楽になるのか」と、業務を丸ごと言語化するのです。次に、僕はその内容をAIに伝えます。実装の詳細はAIに任せ、僕は仕様の矛盾や漏れがないか、実装の前に何度も言語化を調整します。AIが実装し、僕が動作確認をして、当日中に本番反映する。実際に、社員の要望を朝に聞いて、昼には本番稼働させた事例もあります。汎用SaaSなら機能追加のロードマップを延々と待つところが、社内だけで完結するのです。
ここで強調したいのは、本丸はプログラミング知識ではない、ということです。本丸は「自分の業務のどこをAIに任せたいか」を言葉にできることです。業務を言語化できるということは、すなわちその業務の本質を理解しているということです。僕たちの場合、ホームページ制作・動画制作・経営コンサルティングという3事業の現場を回ってきた業務知識が、そのままシステムの設計図になっています。どの画面で誰が迷うのか。どの数字を経営者が毎朝見たいのか。何が手作業のボトルネックなのか。それを知っているのは、ベンダーではなく、現場にいる僕たち自身です。
だから出来上がるシステムは、大企業向けとも個人向けとも違う、独特の形になります。
「8人で回す会社」に最適化されたシステム群。エンタープライズの複雑さも、個人向けの簡易さもない中小企業のちょうどいい
この「ちょうどいい」こそ、AI社内ツールの本当の価値だと僕は考えています。大企業向けのシステムは、承認フローや権限管理が僕たちの規模には重すぎます。かといって個人向けの簡易アプリでは、会社の業務は回りません。自社の規模と業務フローにぴったり合った道具は、市販では手に入らないのです。それを自分たちの手で作れる時代になった。これが、非エンジニアの僕が現場で実感していることです。
AI社内ツール同士が繋がる — MCPサーバー12・約110ツール
19個のツールをバラバラに作っただけでは、道具箱が散らかるだけです。ツールが増えるほど「あの画面を開いて、この画面に転記して」という往復が増え、かえって手間が膨らむ危険すらあります。僕たちが重視してきたのは、ツール同士をAIから横断して操作できるようにすることでした。その鍵がMCPです。
MCPはModel Context Protocolの略で、Anthropicが2024年11月に公開したオープン規格です。難しく聞こえますが、役割は単純で、「AIが業務システムを直接操作するための共通の差し込み口」だと考えてください。この差し込み口を各ツールに取り付けておくと、AIエージェントが人間の代わりにシステムの操作者になります。僕たちは19個のうち12プロダクトにMCPサーバーを導入済みで、AIから操作できる機能は計約110ツールにのぼります(2026年7月18日の棚卸し時点)。
これで何が変わるのか。AIエージェントに「カードを作って」「期限切れを教えて」と自然言語で頼むだけで、システムが動くようになります。実務の風景はこうです。ミーティングの議事録を処理すれば、宿題がタスク管理に自動で投入されます。朝はAIが未読チャット・お客様サイトの監視状況・今日のタスクを横断でまとめて報告してくれます。僕は画面を渡り歩く代わりに、AIからの横断報告を読むところから一日を始めるのです。議事録の処理からタスクの投入まで、人間の転記を挟まない業務フローが、いま実際に動いています。
MCPの技術的な中身には、この記事では深入りしません。それは実装記の役割です。ここで持ち帰っていただきたいのは、「AIが業務システムの操作者になる」という構図です。人間がシステムを一つずつ操作する時代から、人間がAIに意図を伝え、AIがシステム群を操作する時代へ。この転換は、システムを自作したかどうかに関わらず、すべての中小企業に及んでいくと僕は見ています。
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19個のうち1個は失敗した — 塩漬けと向き不向き
正直に書きます。19個のうち1個は、失敗しました。
Instagram連携のキャンペーン管理ツール、つなぐSNSです。2026年6月28日から塩漬け、つまり稼働を凍結しています。作ったものの、僕たちの事業の中で使い続ける理由を見つけられませんでした。ほかにも、開発中・試験運用の段階にあるものが3プロダクトあります(財務分析のベータ版・メール対応・セキュリティ監査の試験運用)。19個すべてが華々しく稼働しているわけではないのです。
ここで少し想像してみてください。もし僕たちが「作れるから作る」という理由だけで数を増やし続けていたら、どうなっていたでしょうか。ツールは作った瞬間から保守が始まります。動かし続けるには、不具合の修正も、セキュリティの更新も必要です。数だけ増やせば、いずれ保守だけで会社が止まります。だから、捨てる判断・凍結する判断は、自社開発の一部です。塩漬けにしたつなぐSNSは失敗ですが、「使わないものを使わないと決めた」こと自体は、健全な経営判断だったと僕は考えています。
向き不向きの整理もしておきます。業務が定型的で、市販のSaaSが安く自社に合うなら、買う方がいいです。自社開発が効くのは、「自社の業務フローそのものが競争力になっている」領域です。僕たちで言えば、経営コンサルティングの知見を織り込んだ財務分析や、約100社のホームページを預かる監視業務がそれに当たります。そこは汎用品では代替できないから、作る価値があるのです。逆に言えば、競争力と関係のない定型業務まで自作するのは、ただの趣味になります。この線引きを持っているかどうかが、AI社内ツール開発を経営の武器にできるかどうかの分かれ目だと、失敗した1個が教えてくれました。
自社で作るか、できたものを使うか
ここまで読んで、皆さんの分岐は二つに分かれると思います。
一つ目は、「自分たちでも作ってみたい」という方です。社内にIT担当がいる、あるいは経営者自身が自分の業務を言葉にできるなら、自作への挑戦は現実的です。繰り返しになりますが、必要なのはプログラミング知識ではなく、業務の言語化です。僕たちが公開している実装記の記事群は、そのための出発点になるはずです。まずは一番小さな困りごとから、AIとの開発を試してみてください。
二つ目は、「作るのはまだ重い。でも、できたものなら使ってみたい」という方です。そのために、僕たちは顧客向けの7プロダクトを『接客AIクラウド』として商品化し、ホームページ制作のクライアント約100社を対象に提供しています。ホームページを起点に、守る・知る・書く・話すの4つの働きをAIが担う仕組みです。自社で19個を作り、日々の業務で使い込んできたからこそ、「中小企業のちょうどいい」を形にできたと自負しています。
どちらの道を選ぶにしても、大事なのは、AIを自社の業務に引き込む一歩を実際に踏み出すことです。何から始めればいいか迷う場合は、お問い合わせからご相談ください。御社の業務のどこにAIが効くのか、一緒に整理するところからお手伝いします。
まとめ — 19個の地図を持ち帰ってください
この記事の要点は三つです。
第一に、AIによって開発コストが激減し、中小企業の自社開発が現実の選択肢になったこと。僕たちは19個を作り、15個を本番稼働させています。第二に、本丸は技術ではなく、自分の業務を言葉にできることだということ。第三に、捨てる判断・凍結する判断まで含めて自社開発だということです。
最後に、一つだけ宿題を置いていきます。
自社の業務の中で、「毎日繰り返している手作業」を1つ、紙に書き出してみてください。それが、御社の最初のAI社内ツールの設計図になります。19個の地図は、そのための参考資料として持ち帰ってください。
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著者: 島田慶資(ITコーディネータ)